2020/01/03

滋賀の近江八幡を訪ねました。

師走も中旬を迎えた12月の週末、日中は滋賀銀行の集まりがあり、2次会まで十分に満喫した後、夜のうちに、近江八幡入りをした。 目的は、深尾 善弘 (Yoshihiro Fukao)さんのSNACK(店名SNACK – HYPHEN – )へお邪魔することである。

深尾さんとは、彼が創業メンバーである「一般社団法人 滋賀人」のイベントで、パネラーとして登壇させて頂いて以来のご縁である。このタイミングでお邪魔することになったのは、ほぼ1か月ほど前に「滋賀人」の創業者の皆さんを徳島視察ツアーにお誘いし、徳島の地方創生を共に見聞きし学び、滋賀への想いを一層強くしたこと、私自身、滋賀をもっと知りたいと思ったからである。彼は、快く一日の近江八幡訪問を、アレンジして下さった。

「SNACK – HYPHEN -」 の話は、事前にfacebookで観たり話を聴いていたが、「まちづくり」に携わる彼の様々な想いから、紹介制、会員制、住所非公開のクローズドな場として運営されている。うかがってみると、話の通り、シンプルながらコンセプチュアルな空間で、居心地がよく、自然と店主の彼とのカウンター越しの会話が創造的にあちこちに飛び交い、それでいて、落ち着いて過ごせるという、ちょっと不思議な浮遊感のある贅沢な夜を過ごさせて頂いた。こんな空間が、身近にあったらいいなあと思わせる。(だから、作ってしまったという、彼が、シンプルに羨ましい。)言い添えると、お酒も良質なものが置いていて、あまりの居心地の良さに、フレンチハイボールとウイスキーで2時間以上も、長居してしまった。

深尾さん 深尾さん_2

さて、翌日。いよいよ、深尾さんのご厚意で、私の「地元の人からみた近江八幡らしいところへ行きたい」という希望を叶えてくださり、(私にとっては)小旅行へ。

まず、朝一番は「ラ コリーナ」へ。今や全国ブランドとなった和菓子の「たねや」(洋菓子ブランドは「クラブハリエ」)さんが経営する、お菓子工場と店舗やカフェ、オフィスが併設された施設だ。それだけでなく、近江八幡の里山に抱かれた広大な敷地に田んぼや畑や木々や石が、自然の中に雄大かつあくまで自然な姿で佇んでいる。「たねや」さんのすごいところは、どこにもないものを作り上げるところだと、改めて思う。まだ、開店早々の時間だったが、みるみる人が集まってくる。どうみても、どこにも同じものは、無い。監修はイタリア人建築家「ミケーレ・デ・ルッキ」氏で、藤森 照信氏などの多彩な建築家やデザイナーが参画している。実は、以前「近江ゆかりの会」の対談で「たねや」山本社長とご一緒してから、話に聴き、何度か訪れるチャンスを逃していた「ラ コリーナ」。訪れてみて、この「場」(ハード)ひとつあるだけで、多彩な活動(ソフト)が可能となるであろうそんな創造力が刺激され、実際、多様な取り組みに挑まれている山本社長の、あのときの「近江から世界へ」という言葉を、思い起こさせた。(実際、このラ コリーナで、物販や飲食サービス事業のみならず、農業や菜園などの事業、地域創生からグローバルリーダー育成、SDGsなど幅広い活動が行われている)、どこか「繋がっている」世界というイメージを想起させられた。
 バームクーヘン 木型
(左:カフェで頂いた焼きたてのバームクーヘン 右:和菓子作りのための繊細な木型たち)

「ラ コリーナ」では、毎週のように色々な催事が行われているが、この日の圧巻は、コーヒーバリスタのチャンピオン逗子さんに入れて頂いたコーヒーカクテル。ドライバーをして下さった深尾さんはノンアルコールの「エスプレッソトニック」私は「エスプレッソマティーニ」を頂く。泡の中に甘さとコクが包み込まれ、口の中で次第に広がって、最後にマティーニの香りが漂う絶品のカクテルは、「ラ コリーナ」の、上質でありながらほどよい距離感のサービスを彷彿とさせ、人を魅了する。

まさに、地域に拘り地域に根差しながら、世界に誇る上質な場と顧客体験を提供している。誰もが、再び訪れたくなる。「たねや」恐るべし、である。

「ラ コリーナ」を満喫したあとは、近江八幡の旧市街へ戻り、散策をする。深尾さんも顔見知りの、「尾賀商店」さんへお邪魔した。 骨董屋さんに併設した、カフェやギャラリーがあり、蔵のなかのギャラリーでは、素敵な切り絵展も開かれていた。作家の杉本智宏さん自ら、丁寧に説明して下さる。地域には、こんなイケてる作家さんがさりげなくいるのだ。何と杉本さんは、深尾さんのお母さま(音楽の先生)の教え子とわかる。 地域では、あっという間に人とつながる。
 杉本さん切り絵_1 杉本さん切り絵_2
(杉本智宏さんの切り絵作品。古民家のギャラリーに、お洒落なフォルムの切り絵が似合う)
骨董屋の奥さまが開業準備をされている町家宿のお部屋も見せて頂く。丁寧に保存された町家には、ユニークで思わぬ想像力の湧く小さな空間が随所にあり、ここで暮らした人々の日常に思いを寄せることができる。
味わいのある尾賀商店さんをゆっくり見せて頂いた後、近江八幡の近江八幡らしい場所のひとつ、八幡堀へ向かう。 八幡城の城下町の大動脈でもあり、近江商人のお膝元でもあるこの街の経済を支えた物流路でもある八幡堀。 両側には、土蔵や旧家が残り、当時の栄華が偲ばれる。水に映る木々は桜や紅葉の季節ごとにその表情を変えていくのだろう。 深尾さんによると、この水路を埋めようという住民や役場の決議を覆したのは、民間の力だったそうだ。
八万堀_2 八万堀人入り
日牟禮八幡宮のたもとには、「たねや」と「クラブハリエ」のカフェがあり、やはり賑わっていた。ここには、数年前に訪れたことがあったが、相変わらずこちらも人気のようだ。
ようやく、お昼ごはんの時間になり、こちらも行きたかった「ひさご寿し」さんへ。 珍しい氷魚に始まり、丁子麩、赤こんにゃく、じゅんじゅんといった近江八幡ならではの味を頂けるのも嬉しい。そして、やはりお寿司。ここでは、なれ鮨の筆頭「鮒ずし」の握りや鯖寿司、「びわますの棒寿司」など、ここに足を運ばないと頂けない「ひさご寿司」さんならではの極上のお料理を頂く。久しぶりにお会いした、店主の川西さんや氷魚を揚げて下さったという漁師さんとの会話も、これに勝るおもてなしは無い。ここでも深尾さんの温かいお気遣いで、すっかり「松の司」の土壌別仕込みの飲み比べなどしてしまい、滋賀の味を堪能させて頂く。
すっかりお腹を満たし、旧市街に戻る。町家インという、旧市街地区の町家を改装したホテルを覗かせて頂く。ホステルも併設されていて、ネイルや小さなショップも入る広大な造り酒屋さんだった建物。 奥にはイベントスペースや、アートも置いてあり、まだまだたくさんスペースがあって、遊び心が擽られる。この、ゆとりが、創造性を生むんだろうなと思わせる空間である。
旅も佳境に入り、太陽が西に傾き始めたころ、最後に連れて行ってくださったのが、琵琶湖に突き出すカフェ「シャレー水が浜」だ。 湖に映る夕陽が美しく、その夕陽を浴びながら、水鳥が優雅に波乗りをしている。いかにも琵琶湖らしい、美しい風景を見せて頂き、心が和む。
シャーレ水が浜水鳥
旅も終わりに近づいてきた。今回、終日時間を割いて、近江八幡をガイドして下さった、深尾さん。その深尾さんからの最大のサプライズがあったことを、最後に付記しておきたい。
幼少期、技術屋だった父の勤めるシキボウの工場で育った私は、(滋賀県)草津市、近江八幡市、(三重県)鈴鹿市と、3つの工場を父の転勤で何度も転居していた。草津が最も長かったが、私の記憶に鮮明にある広大な草津の工場はとっくに跡形もなくなり、幼い頃に慣れ親しみ記憶に刻まれた工場をもう現実のものとして目にすることはないのだと思っていた。かたや、鈴鹿や近江八幡の記憶は、1歳から3歳くらいまでに過ごしたせいか、残念ながら殆どない。ただ、草津がとうになくなったこともあり、思い込みで他の2工場もないものだと思っていたのだ。深尾さんに、この日道すがら「近江八幡に住んでいたこともあるのよ、シキボウの工場があってね・・・」と話したところ、何と「それ、残ってますよ」と、わざわざ連れてきて下さったのだ。しかも、その地は、数年前に近くまで来ていたが、全く気付かず、知らないまま通り過ぎた場所だった。
幼い頃過ごした工場と社宅とがそのままに残っていて、私の目の前に忽然と現れた。3歳の頃の記憶は殆どないが、近江八幡の豊かな里山と水と湖に抱かれたこの地で育った軌跡が確かに残っていて、再び訪れ、この目で間近に見ることができた。
シキボウ張り紙 シキボウ社宅
「近江八幡に行きたい」そう思った時には予想もしなかったことで、深く感動を覚えた。ただただ、深尾さんとこの地に感謝しか無い。

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