本プロジェクト欄でもご紹介した製造業A社の「経営幹部候補の育成プロジェクト」。昨年実施した第一フェーズでは、3グループに分かれて「経営方針を具現化する施策」を策定し、経営会議に提言し、その施策を通すという、ゴールを設定しました。
11月末のゴール、即ち、経営会議での提言では、厳しい質問や注文がつきながらも、条件付き(2つの班は合流して一つの施策として進める)ではあるものの基本的にGOがかかり、結果的に経営陣から「やってみなはれ」と背中を押していただきました。そして、2グループ共に、それぞれ試行段階を経て(弊社は、第二フェーズとして、その試行段階を併走しプロジェクトの進め方をご支援しました)、今年の5月以降は、スモールスタートながら、現場での施策推進に取り組んでおられます。
本記事では、その1グループの活動をご紹介しましょう。
このチームは第一フェーズで「社員が明るく活き活きと働くには?」という経営方針に取り組みました。このようなテーマはどの企業でも方針に掲げ、常に課題となり、おおよそがよくある「コミュニケーション」の問題として議論されます。実はA社も過去何度か同様の課題に取り組み、「やりっ放し」や「尻すぼみ」となっていました。経営会議でも「今までと何が違うの?」「そんなに時間をかける意味があるの?」と厳しく説明を求められました。
そんな「コミュニケーションの活性化」として言い尽くされたテーマを、彼らは具体策としてどのような施策や活動に落とし込んでいったのでしょうか。
第一フェーズでのアウトプットとしての彼らの施策は、そこで学んだ(弊社が提供した)まさに「問題解決手法」や「ファシリテーション」の手法を、自分達だけでやってみる、その手法を可視化し、自ら体験することでリーダークラスが習得し、社内の会議や議論による問題解決手法のスタンダードとするという決意であり施策でした。
第一フェーズで学んだ手法そのものが、彼らの興味を引き、これを「全員で覚えたい」「身に着けるべき」スキルと感じて下さったことは、提供側としてはとても喜ばしい事であり、まさに「人財育成プロジェクト」がやりっ放しでなく彼ら自身が「自走」する助けになるという意味で、たいへん嬉しい成果でした。とはいえ、一方で、本当に彼らだけでできるだろうか?という、ちょっとした不安もありました。なぜなら、第一フェーズのプロジェクトそのものの議論が覚束ないくらい、彼らが議論下手、ファシリ下手だったからです。とはいえ、人財育成の基本は「やろうという自主性、主体性を大事にし、相手を信じること」です。
彼らの施策を、どうやって実現するのか、そのフィジビリティは? 第二フェーズでは、プロトタイプで実証しながら、より効果的な方法、浸透しやすい手法を検証して必要なツールを用意したり、アプローチを検討しました。そのアプローチは、部門横断的なチームで全社的なテーマについて議論するというセッションを、「ローテーション方式」でメンバを選出したチームで行い、順次先行したファシリテーターが次のファシリテーターを育成し、伝搬していく。そして弊社が第一フェーズで提供した教材を、自ら噛み砕き「マニュアル」として、活動する毎にノウハウを残し、そのマニュアルを自分達でアップデートしていく・・・。そのことにより、「ファシリテーション」の手法を、人から人への育成と、マニュアルへの可視化という手法とを併用し、自分たちのノウハウとして蓄積していく・・そのような手法を取ることになりました。
1,2年前は、「人財育成」という意識も希薄で、「ノウハウを蓄積する」という習慣も、「可視化する」という文化も一切なかったA社において、それは画期的な取り組みであり、組織として大変大きな一歩となりました。なにより、学んだことに対する「それを何とか自分たちのものにしたい。資産にしたい」という執着がでてきたことは、目まぐるしい進歩であり、私たちにとっても本当に喜ばしいこととなりました。
彼ら自身で自走し始めたこの小さな取り組みは、全社を巻き込むにはまだまだ壁もあり、日々試行錯誤のようですが、「今日はこんなセッションをやって、こんな意見が出ました」「一緒にやってきたリーダーと、心の中でガッツポーズをしました」など、そんな報告をこまめにして下さいます。この小さな「成功体験」を積むことでリーダーシップを取っているメンバの方々の自信にもなることと思います。
この取り組みは、社内の各部署に(メンバーの意見を引き出すというスキルを持つ)「ファシリテーター」を育てる取り組みでもあります。思えば、「よその部署に興味を持たない」「腹を割って話さない」「失敗を恐れて意見が言えない」そんな根深い組織文化をもっていたA社に、そのような「ファシリテーター」がに育った暁には、どんな景色が広がるでしょうか。文字通り「明るく活き活き」とした対話と活気が社内各所で生まれますように・・・そんな「明るい」景色を想像し、引き続き、頑張る彼らを応援していきたいと思います。