「社会価値を向上させるスポーツ・イノベーション」フューチャーセッション。少々、大上段に構えたこのテーマ。本フューチャーセッションのファシリテーターを務めることになりました。
この日のファシリテーターは、Jリーグ理事で㈱ウェルネス・システム研究所代表取締役の「村松 邦子」さん、 流通経済大学 スポーツ健康科学部 准教授でラグビーワールドカップ2019組織委員会 レガシーコーディネーターの「西機 真」さん、そして私。いずれも、「イノベーション・ファシリテーター講座」の卒業生(村松さんと私が2期生、西機さんは6期生)です。(後述の上井さん)名付けて、「スポーツ・イノベーション・ファシリテーター」の3名。そんな(ちょっと面はゆいですが)カッコイイ名前を付けてくださいました。さらに、全体のコーディネーターは、㈱フューチャーセッションズの「上井雄太」さんという、わくわくするような最強の布陣。数週間前の事前打合せのときから、大いに盛り上がったのは、上井さんもさることながら、3人ともスポーツに関わりながら「社会課題」に深い見識と関心をもってきたという、共通点があったからだと思います。
そして、さらにEXCITINGだったのは、参加者の皆さん。会場を提供してくださった「サイボウズ BAR」(この場であることが、また、憎い!)に集まったのは、約30名の参加者の方々。現役のアスリートから、指導者、アスリートを支える運営側の方、新聞記者さん、子供にスポーツを教えるコーチやそれを事業とされている企業の方、海外でスポーツを広めるNPOの方、アスリートを支えるトレーナーを目指し留学直前の学生さん、さらには、スポーツとICTをつないだりアプリを開発する開発者やベンチャ企業経営者など。。。スポーツに関わる、また、スポーツで何かやりたい!という多様な人たちが集まりました。関連する競技だけでも、サッカー、ラグビー、バスケ、ビーチサッカー、アメフト、陸上、モータースポーツ、バレーボール等々。。まさに、これこそが、ダイバーシティ。
共通点は一点、「スポーツに関わる」とはいえ、これだけ多様な立ち位置の人たちが一堂に集まり意見やアイデアを出し合うという場は、作ろうと思ってもなかなか作れる機会ではありません。このメンバーと「フューチャーセッション」という手法がぶつかり合うと、いったい何が起きるだろう?! まさに想像がつかない、わくわくする場です。(それが、多様なステークホルダーを招いて、未来を描くという、フューチャーセッションの一番の持ち味でもあり、醍醐味でもあります。)
この少々大上段なテーマ、私たちがたてた「問い」は、「スポーツ界とそれ以外のセクター(企業、行政、NGO/NPO)の壁がなくなりお互いの持っているリソースを掛けあわせ、共創することが当たり前になった時、スポーツはどのような役割を担っているだろうか?」。スポーツが、セクターを超えて、どんな社会価値を生み出すことができるのか?生み出すべきなのか? そんなことを、考えてみたかったのでした。
まずは、ストーリーテリング。参加者の皆さんが、それぞれのスポーツとの関わりや実現したい未来や夢を語ります。ほとんどが一人で参加してくださった皆さんですが、これを話し始めると、話が早い。打ち解けるのもあっという間です。私たち自身、それらを聴くだけでも、目から鱗がボロボロ落ちていきます。
そして、続いて、私たち3名の「スポーツ・イノベーション・ファシリテーター」からのインスピレーショントーク。バスケ、サッカー、ラグビー界で、それぞれ話したいこと満載でしたが、今日のところは、「社会課題の解決」や「社会価値の向上」への取り組みに絞り、その理念や事例を紹介、皆さんの視野をさらに広げていただきます。プロスポーツの先輩であるJリーグの村松さんからは、すでに取り組まれている「Jリーグ百年構想」、それに基づくホームタウン活動の事例、ダイバーシティ&インクルージョンのノウハウの解説、西機さんからは、ラグビー界で取り組まれている、次世代リーダー育成や海外での教育支援活動のプレゼンテーションがありました。私からは、開幕前の「Bリーグ」はまだ事例らしきものがないのですが、Bリーグの概略や理念を紹介、リーグとして「SR(社会的責任)」を最上位に掲げ、取り組むことにコミットしていることや、そのもとになるビジョン、ミッションをお話させて頂きました。さすが、サッカーやラグビーは、一日の長があり、一競技の枠に閉じない「社会課題の解決」の実績が豊富で、経験値を積まれており、私自身にとっても、大変有益な情報を頂きました。
さて、そこからが本番。ここに参加した方々は、もともと、問題意識が高かったり、こんなことがやりたいという構想や思いのある方、または既に取り組み中の方々ばかり。ただ、ここにきて、ほかに「こんな人がいるんだ」「こんなことができるんだ」という新しい情報を得たことで、彼らは、さらにインスパイヤされ、対話すればするほど、思ってもいなかったアイデアや未来イメージが生まれていきます。ストーリーテリングやインスピレーショントークから、すでにその兆しが。。。
そして、ワールドカフェに入り、たてられた問いは、「こんなことがやりたい」「こんな人とつながりたい」と感じたアイデアを4人一組で出し合うこと。テーブルホスト以外は各テーブルを回っていき4ラウンド、その場その場で新たなインスピレーションを得て、シナジーが生まれ、どんどん新しいアイデアが言語化されていきます。スポーツそのものを変えたいという方もいれば、スポーツで社会を変えたい、新しい価値を生み出したい・・・そんなアイデアが縦横無尽に飛び交い、右脳左脳、五感が刺激を受け、すでにここに来た時には考えてもみなかった、イノベーションの「タネ」が生まれていきます。
続いては、マグネットテーブル。自分自身がやってみたい取り組み(アイデア)を持ち寄り、ひとつの取り組みについて考える、新たなチーム(同志)ができました。
そして、最終形にまとめるためのプロトタイピング。新しいチームでそのアイデアが実現した未来をメディアに掲載する編集会議を開き、メディア(この日は新聞)を完成させるというお題でした。すでにタイトな時間になりつつありましたが、さらにアイデアが練りあげられ、ビジュアルにまとめていく作業は、さすが、追い込みに強いアスリートの底力が発揮されました。
そして各チームからのプレゼンテーション。「スポーツをICTでサポートする未来」「地元愛をスポーツで」「スポーツをサポートするプロフェッショナル人財」「稼げるアスリートの未来」「生活に入り込んだスポーツ」「日本のスポーツの海外輸出」など、三者三様、百者百様の多様な未来が発表され、「記者会見」という場の設定も大盛り上がり。想像を超える、未来イメージが、いくつも誕生しました。
最後は、サークルで、改めて皆さんに、ファシリテーターから問いかけます。「生み出されたアイデアを実現するための、踏み出すべ私の最初の一歩は?」 多様な立ち位置の皆さんから、様々な「行動に移す」コミットメントが発表されるのも、このフューチャーセッションの「なせる業(わざ)」です。最後には、セッションの様子がビジュアルに記録に残るのもいいですね。
久しぶりに務めた、フューチャーセッションのファシリテーター。しかも、「スポーツが、競技を超える社会課題を解決する」と信じて疑わない、Jリーグ、ラグビーを支える、お二人の同志と一緒に登壇できたことが、何よりの嬉しい時間となりました。
そして、もうひとつ、嬉しかったことがあります。今回、私が声をかけた二人の大学の後輩が、誘いに応じて参加してくれたことです。一人は立命館大学のパンサーズで活躍し、今もオービックシーガルスで現役のアメリカンフッットボール選手である「北村優」君。そして、モータースポーツのアスリートを支えるトレーナーを目指しアメリカへの留学を控えた学生の「林俊之介」君です。林君は京都から夜行バスに乗って参加してきてくれました。その林君が書いてくれたブログとそこに記録された言葉を最後に紹介し、(彼のブログアップに遅れること2か月の情けない私ですが)このコラムを書き終えたいと思います。
「スポーツ界だけでもいろんな資格や思考が乱立していて、スポーツを支える側が1つになりきれていない部分があります。 お互いの職域を奪い合うところがあったり、お互いの分野の理解が足りなかったりします。大切なのはお互いの強みを出し合って新たな価値を生み出すことです。 出し惜しみしてられるほど人生は長くありません。」
若いだけではない、スポーツに真剣に向き合い、深い思考の訓練ができているということがよくわかる、素晴らしい、林君の気づきです。
彼らにとって、よりよい未来のための気づきの場となれたことが、これもまた、想定以上となった、嬉しい「フューチャーセッション」でした。